高年齢者雇用における賃金管理
公的制度(在職老齢年金、高年齢雇用継続給付)を活用した賃金設計

 高年齢者雇用が進まない大きな理由の1つに賃金の問題があります。経験豊富な高年齢者を雇用したいが、人件費が上昇するのでは、と懸念されている企業も多いと思います。、会社の人件費負担を軽減し、高年齢者の手取り額を極端に引き下げないで済む方法はないか?そのような経営者の方の質問にお答えするために、公的制度を上手に活用した賃金設計をご紹介いたします。

60歳前の手取額  給料
 社会保険料・源泉所得税
60歳以降の手取額  給料
 A.在職老齢年金 公的制度の活用
 B.高年齢雇用継続給付
 C.在職老齢年金の支給停止額
 社会保険料・源泉所得税

会社の人件費負担を軽減    かつ、高年齢者の手取り額を極端に引き下げない

T.公的制度について

 A.在職老齢年金 (60〜64歳の在職しながら受ける老齢厚生年金−低在老)

受けられる年金額 = 基本月額 − 支給停止基準額
(解説) ○「支給停止基準額」=「総報酬月額相当額」と「基本月額」を用いて算出
○「総報酬月額相当額」=その月の標準報酬月額
                +その月以前1年間の標準賞与額の合算額÷12
                (標準賞与額は1回の賞与についてMAX150万円)
基本月額=年金額(加給年金は除く)÷12

支給停止基準額の算出方法

28万円
以下
−−−−−−−−−−−−−→ なし・・・(老齢厚生年金全額支給)
28万円
基本月額
総報酬月額
相当額
28万円以下 48万円以下 総報酬月額相当額基本月額−28万円)
×1/2
48万円超 (48万円+基本月額-28万円)×1/2
総報酬月額相当額-48万円)
28万円超 48万円以下 総報酬月額相当額×1/2
48万円超 (48万円×1/2)
+(総報酬月額相当額-48万円)
総報酬月額相当額基本月額の合計額が

支給停止基準額

B.高年齢雇用継続給付

高年齢雇用継続給付 60歳以後の各月の賃金」が「60歳到達時賃金月額」に比べ、75%未満に下がった状態で働く人に対し、賃金の低下率に応じて給付金を支給する
高年齢雇用継続基本給付金 60歳以後引き続き雇用される場合に支給
高年齢再就職給付金 失業後、基本手当を受給し、再就職した時点での支給残日数が100日以上の場合に支給

2種類ある

●支給額は?

60歳以後の各月の賃金」が
60歳到達時賃金月額」に
比べ
支給額
   61%未満  支払われた賃金額×15% 
   61%以上75%未満  支払われた賃金額×(15%から一定の割合で逓減する率)
             ↓
     −183/280   × 支払われた賃金額
     +137.25/280 × 60歳到達時賃金月額

■支給限度額■

支払われた賃金額≧支給限度額       ⇒ 給付金は支給されない

支払われた賃金額+給付金>支給限度額 ⇒ 給付金=支給限度額−支払われた賃金額

 支給限度額  339,484円
 *給付金として算定された額が1,656円以下の場合は支給されない
                         (金額はともに平成17年8月1日現在)

C.在職老齢年金の支給停止額 (在職老齢年金と高年齢雇用継続給付の併給調整) 

  在職老齢年金と高年齢雇用継続給付とをあわせて受給する場合には、年金額から最大で標準報酬月額の6%が支給停止される・・・「併給調整」

標準報酬月額」が
60歳到達時賃金月額」に
比べ
支給停止額
   61%未満  標準報酬月額×6% 
   61%以上75%未満  標準報酬月額×年金停止率(厚労省令で定める率)

 *年金停止率=(−183A+13725)÷280×100÷A×0.4
   A=標準報酬月額÷60歳到達時賃金月額×100

■支給限度額■

標準報酬月額+支給停止額×2.5>支給限度額(平成17年8月1日現在:339,484円)

支給停止額=(支給限度額標準報酬月額)×0.4

U.公的制度を活用した賃金(手取額)シミュレーション

S太郎さんのケースでシミュレーションします

 生年月日・年齢  昭和20年7月1日生まれ(60歳)
 年金支給開始年齢  報酬比例部分が60歳(定額部分は63歳から)
 基本月額  13万円
 60歳到達時賃金月額  40万円
 前1年間の賞与総額  なし
 加給年金対象配偶者  なし

□S太郎さんの状況

シミュレーション1
(現賃金×80%
シミュレーション2
(現賃金×60%
シミュレーション3
(現賃金×
40%
賃金月額   400,000 賃金月額   320,000   240,000   160,000
(総報酬月額
相当額)
  (320,000)   (240,000)   (160,000)
社保料・税計   -67,372 社保料・所得税計    -51,924    -38,011    -24,177
(健康保険料)  (-19,372) (健康保険料)   (-15,120)   (-11,340)    ( -7,560)
(厚年保険料)  (-28,565) (厚生年金保険料)   (-22,294)   (-16,721)   (-11,147)
(雇用保険料)   (-3,200) (雇用保険料)   ( -2,560)   ( -1,920)    ( -1,280)
(所得税)  (-16,190) (所得税)   (-11,950)   ( -8,030)    ( -4,190)
A.在職老齢年金    45,000    85,000   125,000
B.高年齢雇用継
  続給付
      0    36,000    24,000
C.在職老齢年金
  の支給停止額
      0   -14,400    −9,600
手取額   332,673 手取額    313,076   308,589    275,223
本人手取の増減   -19,597   -24,084   ‐57,450
会社負担の増減   -91,843  -182,517   ‐273,190

□現在の賃金  -−−−−−→  □公的制度を活用した賃金(手取額)シミュレーション

【コメント】
 賃金(手取額)シミュレーションの結果に関してはどのような感想をお持ちになられましたか?
 賃金月額を80%→60%→40%と減額していっても、本人の手取額はさほど減らないことに気が付かれたかと思います。しかし、程よいところで賃金月額を設定しないと、手取額が大きく減額になり、働く意欲もなくなるという危険性もあります。
 団塊の世代が60歳を向かえる2007年、経験豊富な高年齢者を戦力化していくシステムを早急に整えることが、厳しい企業間競争を勝ち残る施策ではないでしょうか。そのためにも複雑ではありますが、公的制度を上手に活用した賃金設計のシステムを導入することをお勧めします。