題名=「モーリス」 1987年 (イギリス)
原作=E・M・フォースター 出演者=ジェームズ・ウィルビー/ヒュー・グラント/ルパート・グレイブスetc...
フォースター曰く、
「ハッピーエンドにすることが必至だった、
そうするのでなければ書く必要はなかった。」
(1960年の「あとがき」)より
この作品が書き上げられたのは、1914年。
当時フォースターは35歳でした。
イギリスで成人間の同性愛が合法化されたのが1967年・・・
しかし、フォースターの意向によって彼の生前にこの作品が発表される事はありませんでした。
彼が亡くなった1970年の翌年になって、やっと日の目を見た訳です。
またしてもフォースター曰く(^^;)
「もしも、ハッピーエンドでなく、若者が絞首台からぶら下がる、あるいは二人が心中するなどの結末にしていたのなら、〜(中略)〜すべて上手くいっていたことだろう。ところが私の作品の愛人たちは罰せられずに生き続ける。すなわち犯罪を推奨していることになるのだ。」(1960年の「あとがき」)より
と、このような時代及び社会の道徳的法律的背景を背負った問題作だったのです。
物語は、生粋の上流階級人のクライブ(ダーラム)と、中流?のモーリス(ホール)がケンブリッジで出会い、愛に目覚め、愛し合うようになるところから大きく動き出します。
ところが、モーリスにこの愛を気付かせた張本人であるクライブには、確固たる道徳的基盤があり、プラトン的抑制を貫くのです。禁欲的・・・それが、美しさを醸し出していたのは事実としても、モーリスにとってはおあずけ状態が続きます。ここで、作者が設定していたクライブとモーリスの身体的特徴が、読者を納得させるのに役立つでしょうか。
繊細な肉体と金髪白皙、冷静で頭脳明晰なクライブ(注:映画ではヒューグラントだったので金髪ではなかったのですが)それに対してモーリスは、健康的な肉体を持つ好男子、頭の切れはヤヤ悪いが、素直でヤヤ俗物であるという
この二人がそれぞれに目指している愛の形は完璧に異なっているんです。
何もかもを分かち合いたいと思うモーリスと、崇高なものとしての美しいプラトニックラブを目指すクライブ・・・
ここでまたフォースター曰く(^^;)
「彼らの関係は(プラトニックのまま)三年間持続する〜(中略)〜とにかくその関係は、クライブが異性愛者に転向し、モーリスを再び獄屋に送りかえすまで続くのである。クライブの勢力(この作中における勢力及び魅力)はここから落ち目になる。おそらくこの辺りから、私のクライブに対するあしらいも冷たくなるようである。私は彼に腹が立ってきたのだ。どうやら辛く当たり過ぎたという気もする。政治家気取りのつまらぬ男であることを強調しすぎたかもしれない。髪は薄くなり、彼にしろ、妻、母にしろ、することなす事ろくでもないのだから。」(1960年の「あとがき」)より
と、述べられているように、読者や映画を観ている観客も、急激にクライブを嫌悪するようになっていきます・・・・・作家って凄い!
この絶望的な失恋により・・・失恋というより裏切りによって、モーリスは地獄の底に叩き落されるのです・・・
そして、この時モーリスを救うのが、それまでただの使用人としてチラチラと登場していたアレク・スカダーというダーラム家の猟場番の青年でした。
ただの使用人の脇役から、次第に物語の中心にクローズアップされてくるという手法がとられていて、これはリアルな演出だと思いました。ん?矛盾?リアルな演出・・・でもそう感じました。
アレクに出会った事によって、今度こそモーリスは真に救われます。
出会えたのが奇跡だと言い切ったモーリスの言葉がとても印象的でしたし、その言葉の中に、彼の覚悟のようなものを読み取りました。
ああ、この人は愛を選ぶんだなと・・・
互いに全てを捨てて、共に生きていく事を選んだ彼ら・・・
君がいないと生きていけない僕って・・・これは萌え上がりますよね〜・・・まさに禁じられた愛っス!!!
先日結婚したエルトン・ジョンを見ていると、彼も大変だったのかもしれませんが、時代が時代だったなら、社会的制裁を受けて、地位も名声も財産も没収された上で身分の低いものなら絞首刑もしくは流刑になっていたかも知れないんですよね・・・そう考えると、そのウルフェンデン勧告(成人間の合意に基づく同性愛の合法化を勧告した)が法制化された1967年からの社会における同性愛者に対する理解?の推移は著しいものがあったという事でしょうか・・・・・
最後に、結局何だかんだ言っても、この輝ける青春のひとコマがもっとも切ないんですよね・・・
それは、ダーラムの記憶なんです・・・・・
「遠いケンブリッジのキャンパスのどこかで、友が呼ぶかと思われた。
陽光を一身に浴び、ケンブリッジの五月の匂いとさざめきをよみがえらせて。」
(扶桑社刊「モーリス」著:E・M・フォースター訳:片岡しのぶ)より。
モーリスが笑顔で手を振り去ってゆく、あのケンブリッジの五月・・・
2006/01/23UP