熊井 啓
題名=サンダカン八番娼館〜望郷〜 年
出演者 高橋洋子 栗原小巻 田中絹代
田中絹代のせいです
泣くにも程があるってくらい泣きました。 この有様は他人にゃ見せられませんってくらい嗚咽嗚咽嗚咽嗚咽
今だかつてこれ程泣いた映画はないです
この田中絹代先生・・・若い頃は高橋洋子(この人もまたいい)の辿る運命が壮絶なんです
まず、借金の形に親戚のオヤジの経営する南方はボルネオの娼館に売られて行きます
親戚のオヤジっていうのがヒドイ・・・
でも、この映画は娼婦になった彼女の境遇に同情して泣く類の映画ではないんです。
基本的に、この主人公は取り巻く環境や状況が変わっても、根の部分がずっと変わらずに純粋なままなんです
運命に流されるのではなく、運命に自ら飛び込んで行くタイプの人な気がします。
自分の生を、力の限り生きてきた人なのです
それでは、何が私を泣かせたのか
そんな類稀な純粋な主人公の行き着いた果てが、部落のはずれ・・・
障子も畳も無いに等しい廃墟のような場所で、たった一人で暮らしているのです・・・沢山のノラ猫も同居
食べる物は、稗、粟、の混ざった米と、芋の塩煮込みか味噌煮込み
来る日も来る日もこればかり、これをもの凄い勢いで口の中に掻っ込む主人公
・・・生きるという本能を感じるシーンでした。
ストーリーとしては、ある大学の女性学者が、(これ栗原小巻さんです。)借金の形や口減らしの為に南方へ売られて行った少女たち(からゆきさん)の生き証人の取材をしようと九州は長崎?(ちゃんとチェックすること)へやって来るところから始まります。
たまたま入った食堂で、彼女(栗原)は、主人公(田中絹代演じるおさきさん)と出会います(学者であること、自分の目的は隠したままです。)彼女は話を聴こうとおさきさんについて行きます
おさきさんの生活する今にも崩れそうな家に着き、虫が這いずり回る畳の上で生活するおさきさんと話をしながら、疲れていた彼女はそこで眠ってしまいます
目が覚めた時、おさきさんは一瞬びっくりして正座します。そして、深々と頭を下げて「よくこんな所へ上がって下さった!しかも昼寝までして下さった」と言うのでした。(セリフは正しくありません)
彼女はどんな仕打ち、差別を受けて来たのだろう・・・
この後彼女はいったん東京に戻り再び訪ねて来るのですが、その時も、おさきさんは暫し呆然と彼女を見つめます、まさか再び戻ってくるとは思っていなかったんでしょうね
そして大喜びで(←スゴク可愛いの)自分が寝ている薄〜いせんべい布団ではなく綿の入ったフカフカの敷布団を彼女の為に敷くのでした。この敷布団にも色々なドラマがあります
この時点で女性学者(栗原小巻)はおさきさんにある種の愛情を抱いています。(愛すべき人なんですよ、おさきさんって。)おさきさんも彼女を娘のように扱います。おさきさんが楽しそうで堪りませんよ〜
この映画では肉親の愛は殆んど描かれていません。それどころか肉親にこそ疎まれ邪魔者にされたという悲しい記憶しか出てきません。(母親だけは例外です・・・早くに亡くなってしまうし)
娼館での話にはあえて触れませんが、出演者の中にまだ多少若い頃のミズノエタキコさんが出てたりします(カッコイイですね〜)
話が逸れましたが、結局この女性学者との二度目の別れの時がやってきてしまいました。
細かな表情を見ても、行って欲しくないという事が、判り過ぎるくらい判ります。
また、たった一人、同じ事を繰り返す日々が待っているのです。

それでもおさきさんは引き留めません
彼女(栗原)を困らせるような事は何一つ言いません
お世話になったからと、差し出すお金も断って、こう言います
「その代わり・・・お前が今使っている手ぬぐいをくれまいか」と・・・
そしてえーんえーんと子供のように泣くのです。
・・・・・管理人も号泣―!!!
彼女が東京へ帰るという日、二人で穴だらけの障子を張替え、板に藁が乗っかっただけのような畳の上に新しいござを敷き詰めて、子供のようにはしゃぐおさきさんが愛しくて堪りません!
「御殿のごつござる〜御殿のごつござる〜」とござの上を転がるおさきさんが愛しくて堪りません!
ラストも心が苦しくなります。(色んな事を気付かせてくれる映画です。むしょうに誰かに(好きな人に)観せたくなる映画です。)もし、少しでも興味をお持ちになった方がいらっしゃいましたなら、是非是非観てください!
2005/5/29UP