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ポール・ボガート
題名=トーチソング・トリロジー  1988年(アメリカ) 日本公開時=1989年
出演者=ハーベイ・ファイアスティン/マシュー・ブロデリック/アン・バンクロフトetc...


「トーチソング・トリロジー」が日本で公開された頃、私は美術の専門学校に通っていました。
もともと、マシュー・ブロデリックのファンだったせいもあって、そのマシューが、ゲイの相手役だということで、これは楽しみ!と、学校をサボって観に行った記憶があります。
私と友人2人と・・・気が付くと、同じクラスの数人も、確かこの映画の時だと思ったのですが、サボって来てて、ズラッと横に並んで観たような・・・「ブルックリン最終出口」の時だったかな・・・今となってはさだかではない(−−;)って、真逆な映画じゃん!・・・
何せ、観終わった後の感動が凄すぎて、前後の事はあんまり覚えてないんです。

この映画は、悲しくて笑えるんです。切なくてあったかいんです。
こんなに気持ちが優しくなる同性愛の映画って観たこと無かったです!
この少し前に、公開されていた同性愛の映画といえば、「アナザー・カントリー」とか「モーリス」なんかで、あとはアンダーグラウンドの映画が殆んどでした。

「アナカン」や「モーリス」は、観ている方は苦しいばっかりで、最終的には、
良くて、日陰を歩いて生きて行く事を受け入れる。
というような、消極的結末でした。・・・時代背景的な限界もありますけど。

ところが、この「トーチソング・トリロジー」では、そうじゃなくて、
同性しか愛せないように生まれ付いて来ているのに、なぜそれを恥じなくてはならないのか?
なせ自然でいてはいけないのか?
という根本的なところから疑問を投げかけて来ているのです。

なるほど、常日頃からゲイに対して偏見など持っていないと思い込んでいた私でしたが、
う〜・・・自然なこと、普通のこと、・・・という認識は無かったかなぁ・・・
どちらかと言うと、男女間の恋愛よりも、逆境がある分、より強烈な恋愛感情で結ばれてんじゃないのかいっ!といった無責任な憧れを抱いておりました!浅いな〜・・・

それにしても、いとしいのはアーノルド(ハーベイ・ファイアスティン)ですよね〜!
アランを演じる(マシュー・ブー)を観に行ったはずなのに、帰る頃にはすっかりアーノルドに夢中になってました。

初めてアランに出会った時、酔いつぶれた彼を、アーノルドが一晩部屋に泊めるのですが、
その部屋の装飾品が、ことごとく
うさちゃんで・・・
うさぎのポットで茶を入れた日には、そのミスマッチさが却って内面の乙女を暴露するという展開に、思わずほくそ笑んでしまいました!
その後、クリスマスの日に、
うさちゃん持って食事に誘いに来たアランを、「こんなに若くて綺麗な子が自分なんか・・・」と信じ切れずに断るアーノルドに、
「意気地なし・・・」
とつぶやくアランが◎でしたね〜!

このシーン大好きなんですよ〜!
何か、ドキドキしちゃうんですよ〜!初恋かよ〜っ!(≧▽≦)
結局何だかんだあったものの、2人は愛し合うようになります!

そんな、2人に、ある日突然悲劇が襲いかかります・・・・・
それは、2人の間に養子(子供)をもらおうという事になり、その子供の為に、もう少し広い部屋をと、新しいアパートに越してきた日の夜でした・・・
                                       
チンピラグループにリンチされているゲイの老人を助けに入ったアランは、路上で殴り殺されてしまいます。
救急車で運ばれてゆくアランを、言葉も無く呆然と見送るアーノルドが、どこまでも切ないっス・・・・・。

ここで、場面は一転してコメディへ。
学校でケンカしたデビッド(養子)を引き取りに行く時のアーノルドの足には
うさちゃんの部屋履きが・・・柄じゃないですよ、耳付きの、ぬいぐるみ仕様の部屋履きっス!

このやるせなさを引きずらない演出が、実に悲しみを余韻として残すのですが、その余韻を残しながらも、観客の暗い気持ちを見事に断ち切るという・・・言葉ではない感覚的テクニックがまた憎いです!きっと、言葉じゃ伝わらないですよね。私も書いててワケ判らんし・・・。
で、ラストに向けて、この後にもの凄い親子ゲンカが繰り広げられます!
墓場での母親(アン・バンクロフト)とのやりとりは圧巻でした!

「35年間連れ添った夫婦と、たかが7年の愛人を失った悲しみを一緒にしてくれるな!」
「おまえの悲しみなんか!」
と糾弾する母親に対してアーノルドはこう切り返すのでした。

「ママは幸せよっ!(35年間連れ添えて)・・・パパは清潔な病院のベッドで大往生、でもアランは路上で殴り殺されたのよ!27歳の若さでね!・・・・・ゲイは人間じゃないと思う奴らに!ゲイに愛は無いと思っているママの同類にね!」


この後、アパートに戻って来てからも、口論は続きます。

どうしても息子がゲイであるという事を受け入れられない母親は、つい口を滑らせてしまいます。

「おまえなんか産まなきゃよかったっ!」

ショックを受けるアーノルドに謝りながら、でも、
「ゲイであることをワザワザ触れて回ることはない、歪んだ生き方だけどおまえがそれを望むのならしょうがない、でもほどほどにして欲しい。」と言う母親に、

「自分がどうしてゲイになったのかなんて解らない、僕がゲイであることを隠していた方が幸せだった?・・・子供のすべてを知るのが親のつとめよ!・・・・・あんたは母親、愛してるわ・・・・・でも、見下げるのなら出て行って!」

もの凄い親子喧嘩!・・・・・なんですが・・・・・
あったかいんですよね。ヒートアップしてとかじゃなくって、あったかいんです!

きっと、この母親はずっと悪態吐きながらも見放さないんですよ。
批判しながらも愛してるんです!

早い話しが愛の方が強いんです!
だって、ここまでやり合っておきながら、帰る時、笑って投げキッスしてくるような人だもの!
いいなぁ〜

ラストシーンも、とってもとっても好いんです!
ちょっと悲しくて優しい余韻が切なく胸に残ります。



                            2005/11/19UP




※本編中に出てくる会話部分「」は正確ではありません。内容には変わりないものの、そのまま引用するのは極力控えたつもりです